新日本酒紀行 地域を醸すもの 日本酒

新日本酒紀行 地域を醸すもの・紫宙 NO.323


週刊ダイヤモンド23年12月2日号
の連載「新日本酒紀行 地域を醸すもの」では岩手県紫波郡紫波町の「紫宙(しそら)」をご紹介。

新日本酒紀行「紫宙」
スギに囲まれた水分神社 Photo by Yohko Yamamoto

岩手県紫波郡紫波町

『水分神社の清水で醸す、
女性初の南部杜氏が腕を振るう小さな酒蔵』

(本文)

 樹齢700年の大スギに囲まれる岩手県紫波郡紫波町の水分神社は、水の神として知られる水分之神こと水波能売命(みづはのめのみこと)を祭る。

 藩政時代、盛岡藩から水源涵養林「水ノ目山」の指定を受け、スギの伐採が禁止に。そのおかげでスギ群が残って、町の指定文化財になり、豊かな清水が自噴して上水道にも使われる。この水で酒を醸すのが、蔵人4人の小さな酒蔵、紫波酒造店だ。

 杜氏の小野裕美さんいわく「不思議なことに、くみ置きしても1カ月は傷みません。軟水なのに醪(もろみ)の発酵が旺盛で、切れが良く、杜氏仲間からうらやましがられます」。小野さんは東京農業大学醸造学科を卒業後、日本酒が好きで酒造りの道へ進み、2004年、南部杜氏資格選考試験に女性で初めて合格した努力家だ。

 蔵の主要銘柄は二つ。一つが県産米を用い、珍しい酸基醴酛(さんきあまざけもと)で仕込んだ「廣喜(ひろき)」。酸基醴酛とは、蒸し米を高温糖化で甘酒にし、蔵から選抜した乳酸菌を添加して酒母を育てる酒造り。温旨酸(おんしさん)も冷旨酸(れいしさん)も多く、冷酒でも燗酒でも豊かなうま味を味わえる。

 もう一つが、21年に立ち上げた「紫宙」で、県内外の酒米を、県の酵母「ジョバンニの調べ」を使って速醸酛で醸す無濾過原酒だ。みずみずしくクリアな味が注目の的。副社長の佐藤一章さんは「海外でも通用する酒なので、輸出を伸ばしたい」と未来を描く。

 冬は氷点下のいてつく寒さが天然の冷却装置になり、水分神社の恵みの水と蔵一丸の情熱で、唯一無二の紫波の酒を目指す。

紫宙(しそら)」今年からラベルも一新

●紫波酒造店・岩手県紫波郡紫波町宮手字泉屋敷2-4
●代表銘柄:紫宙、廣喜●杜氏:小野裕美
●主要な米の品種:ぎんおとめ、吟ぎんが、結の香、銀河のしずく、五百万石、美山錦、秋田酒こまち、山田錦
新日本酒紀行「紫宙」
スギに囲まれた水分神社 Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「紫宙」
水分神社の水汲み場 Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「紫宙」
紫波町指定の天然記念物スギ群 Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「紫宙」
蒸し米作業 Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「紫宙」
麹室。籾殻の断熱材を最新材に替えて広く清潔に Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「紫宙」
岩手県工業技術センターの指導を受けた簡易容器での麹造り。温湿度調整が絶妙にPhoto by Y.Y.