新日本酒紀行 地域を醸すもの 日本酒

新日本酒紀行 地域を醸すもの・一歩己 NO.310

新日本酒紀行 地域を醸すもの

福島県石川郡古殿町

「一歩己」IBUKI

新日本酒紀行「一歩己」
豊国酒造、9代目の矢内賢征さん Photo by Yohko Yamamoto

酒蔵を町に!己の一歩を託す、9代目の改革』

 林業の町、福島県古殿町は鮫川沿いの山間の集落。
町の中心部を走る、いわきから白河へ塩を運んだ御斎所街道沿いに、天保年間に創業したのが豊国酒造だ。僻地故に外から競合の酒が入らず、200年以上も地元だけで酒を売ってきた。

 2009年、9代目矢内賢征さんが酒蔵を継いだときは、普通酒主体で生産量は減少の一途。
そこで高品質な限定流通酒「一歩己」を立ち上げた。強い一歩を踏み出し、己の全てを込める酒と命名。米は10kgずつ手洗いし、全工程をひたすら丁寧に醸し「誇りを持つ酒は、自然と評価が付く」と信じた。

  だが、いきなり東日本大震災で被災。マイナスからのスタートを切り、「震災後、一歩の思いがより深く重く、強くなりました」と賢征さん。先代杜氏と福島県ハイテクプラザの鈴木賢二先生の指導を仰ぎ、徐々に酒質が向上。全国新酒鑑評会で連続金賞、南部杜氏自醸清酒鑑評会で首席を受賞するなど、評価が高まり、「一歩己」は生産量の6割に。

 酒造りのテーマは、低アルならぬ「軽アル」だ。クリアで爽快なアルコール感に味もしっかりあって杯が進む酒。原料米は全量福島県産で、一部の美山錦は町内で契約栽培する。

 そんな賢征さんの夢は、酒蔵の町化だ。倉庫を改装した「Kuranoba」で子供たちが楽しめるイベントを実施し、全長30mの壁画も製作中。その前に公園も造る。「将来は醸造場もガラス張りにし、酒造りが気軽に眺められるように」と夢が膨らむ。
酒蔵は酒だけにあらず、己の一歩をこの町に託す。

新日本酒紀行「一歩己」
一歩己 純米原酒
豊国酒造・福島県石川郡古殿町竹貫114
●代表銘柄:一歩己、東豊国
●醸造責任者:矢内賢征
●主要な米の品種:美山錦、夢の香
新日本酒紀行「一歩己」
壁画の前は公園になる計画 Photo by Yohko Yamamoto
新日本酒紀行「一歩己」
町内の美山錦の圃場 Photo by Yohko Yamamoto
新日本酒紀行「一歩己」
美山錦の圃場の奥は小学校。 Photo by Yohko Yamamoto
新日本酒紀行「一歩己」
酒米農家の「おざわふぁーむ」小澤嘉則さんは蔵人を兼任。お母さんの啓子さんは郷土料理研究家
Photo by Yohko Yamamoto
新日本酒紀行「一歩己」
曽祖父が築いた門構え Photo by Yohko Yamamoto
新日本酒紀行「一歩己」
曽祖父が築いた門構え Photo by Yohko Yamamoto
新日本酒紀行「一歩己」
集会施設「Kuranoba」 Photo by Yohko Yamamoto
新日本酒紀行「一歩己」
古い蔵は1915年築で棟木に大工の墨文字が残る Photo by Yohko Yamamoto