新日本酒紀行 地域を醸すもの 日本酒

新日本酒紀行 地域を醸すもの・月の輪 NO.276

昔、女性杜氏が珍しかった時代に、美酒を醸す美人杜氏として注目を浴びた横沢裕子さん。酒蔵の家に生まれ育ち、代々が杜氏や酒造技術者を務めた酒造一家に育つ。

横沢裕子さん

新日本酒紀行「月の輪」
月の輪酒造店外観 

Photo by Yohko Yamamoto

新日本酒紀行 地域を醸すもの・月の輪 NO.276

岩手県紫波郡紫波町

『地の米で醸す酒と米麹のジェラートが
愛される老舗蔵』

(本文)

 日本最大の杜氏集団である南部杜氏の発祥地、岩手県紫波町。この地で1886年に創業した月の輪酒造店のモットーは「企業としてではなく家業として」、そして「飲み飽きせぬ酒」だ。初代は隣町の矢巾町で麹屋を営んでいたが、酒を造りたいと一念発起。良い水を求めて紫波町で酒造を始めた。

 「何もないところから田んぼを借り、情熱だけで酒造りを始めた」と、5代目で杜氏の横沢裕子(ひろこ)さん。2代目は杜氏、3代目は杜氏に酒造指導を行う技師を長く務め、県内の老杜氏から「おじいさんにいろいろ教えてもらったよ」と教わる。

  裕子さんが醸す酒は、美しさに定評がある。代々受け継がれる技術を磨き上げ、全国新酒鑑評会で金賞を何度も受賞する実力派だ。

  原料米の9割は岩手県産で、紫波町の名産品もち米100%の純米酒も手掛ける。もち米は粘着力が強く麹を造りづらいが挑み続けて完成した。
20年以上前に商品化した「無農薬米酒」は自然食志向の4代目、大造さんが考えた。

  大造さんは米麹のアイスクリームも発案し、裕子さんはそれをベースに町内産のイチゴやブルーベリーなど、季節の素材を組み合わせたジェラートを開発。麹の自然な甘さと季節の味が楽しく、売店の人気商品になり、若い常連客からは「アイス屋なのに何で酒を売ってるの?」と聞かれるほどだ。

  東日本大震災を経験し、家業を受け継ぐ重要さを感じた。地域の生産者とつながり、みんなから「おいしい」と喜ばれる蔵を目指し、さらなる技術を磨く。

新日本酒紀行「月の輪」
↑「純米酒 月の輪」
月の輪酒造店・岩手県紫波郡紫波町高水寺字向畑101
●代表銘柄:大吟醸 月の輪、純米大吟醸 月の輪、純米吟醸 月の輪、金山坑道熟成 純米 ●杜氏:横沢裕子
●主要な米の品種:ぎんおとめ、吟ぎんが
新日本酒紀行「月の輪」
蔵の代表作、左から「生酛純米」「純米酒」「金賞受賞酒 大吟醸」 Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「月の輪」
洗米 Photo by 月の輪酒造店
新日本酒紀行「月の輪」
蒸し米 Photo by 月の輪酒造店
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明治蔵、酒は槽で搾る
新日本酒紀行「月の輪」
明治蔵・かい入れ風景 Photo by 月の輪酒造店
新日本酒紀行「月の輪」
明治蔵 Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「月の輪」
酒は全量、槽で搾る Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「月の輪」

新日本酒紀行「月の輪」
もろみを袋に入れてから、槽で搾る
 Photo by 月の輪酒造店

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杜氏の横沢裕子さんと社長の孝之さん、売店「わかさや」、ジェラートの果実、野菜の生産者を紹介
新日本酒紀行「月の輪」
杜氏の横沢裕子さんと、社長の孝之さん Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「月の輪」
売店「わかさや」 Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「月の輪」
ジェラートボックス Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「月の輪」
ジェラートの果実、野菜の生産者を紹介する Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「月の輪」
ジェラートの形作りにもこだわりが Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「月の輪」
イチゴとカボチャのダブル!Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「月の輪」
「無農薬米酒」は、20年以上前に商品化。自然食志向の4代目、大造さんが考えた。 Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「月の輪」
「大辛口純米」のラベルにはツキノワグマが Photo by Y.Y.

週刊ダイヤモンド2022年10月29日号より転載