週刊ダイヤモンド 2022年 6/4号 の連載『新日本酒紀行 地域を醸すもの』では、広島県の復興酒蔵「於多福(おたふく)」さんを紹介しています。
広島県東広島市安芸津町
『吟醸発祥の地、
安芸津の再興蔵で父と子の手造り酒』
安芸津の町は瀬戸内海の良港で、かつて廻船の年貢米輸送の拠点として栄え、広島藩の米蔵もあった。江戸時代から余剰米の酒造りが盛んになったが、水が軟水のため、当時の技術では難しく腐造も多かった。
明治期に入り安芸津の醸造家、三浦仙三郎氏が低温長期発酵による軟水醸造法を開発し、吟醸造りの基礎を築く。
1907年の第1回清酒鑑評会では広島の酒蔵が大挙して好成績を収め、安芸津は杜氏の里として一躍有名になった。
安芸津の三津大川に面した柄(つか)酒造の祖先は、恵まれた水利を生かして廻船「於多福丸」を営み、1848年に酒蔵を創業。
9割が市内消費で、近年は8代目の柄宣行さんが杜氏も兼務し、少量を1人で醸していた。
酒造りが一変したのが、2018年7月の西日本豪雨だ。三津大川が氾濫して麹室は床上浸水し、設備が壊れ、宣行さんは廃業を覚悟。
すると近くに住む元杜氏や蔵人、愛好者が駆け付け、泥出しから総出で助けてくれた。「柄酒造を残せ」という力強い声援を受け、復興を決意。
麹室などの設備を整え、19年に再開した。
宣行さんの長男、総一郎さんは芝浦工業大学で建築を学び、東京で就職し家族もいたが、酒蔵再生のために尽力してくれた地元への恩返しは、蔵を継ぐことだとUターン。
20年から父と酒造りを始め、翌年、父の後押しで杜氏に。
22年の春、広島県産八反錦で醸した純米吟醸「於多福 ごあいさつ」を発売。
フレッシュでうま味のある新たな酒で蔵を引き継ぐ。
↑9代目の柄総一郎さん。全国新酒鑑評会へ初出品したお酒が、なんと、まさかの「金」賞🌟 おめでとうございます。Photo by Y.Y.
●柄酒造・広島県東広島市安芸津町三津4228
●代表銘柄:於多福 ごあいさつ、於多福 純米吟醸、於多福 純米、於多福 大吟醸、於多福 3年貯蔵、関西一 本醸造
●杜氏:柄 総一郎
●主要な米の品種:八反錦
神棚 Photo by Y.Y.
2019年1月、2階に新造した麹室 Photo by Y.Y.
2019年1月、2階に新造した麹室 Photo by Y.Y.