『新日本酒紀行 地域を醸すもの』は福岡県糸島市の「田中六五」を紹介しました
↑田中克典さん。背後は対流を考えて専用設計したもろみタンク Photo by Yohko Yamamoto
『先端技術と古式の形をシンクロさせた
酒造りで未来へつなぐ』
田の中の酒蔵で、田中が造る65%精米の酒だから「田中六五」と至って明快。
地元糸島産山田錦で純米酒のみを醸すのが白糸酒造8代目で杜氏の田中克典さん。目指すのは糸島の地の利を生かす酒造り。仕込み水の脊振山(せふりさん)系伏流水は米が育つ水と同じ水だ。
築100年以上の蔵にある、長さ8mものハネ木をてこに、1tの重しをぶら下げる槽で酒を搾る。重しを縛るロープと結び方は、漁師町出身の先代杜氏の直伝。克典さんは古式のハネ木と最新醸造技術を合体させ、槽をステンレス張りに変え、ジャケット構造に改良し、-5℃で冷却できる槽搾りにした。適量の空気に酒が触れることで味がまろやかに仕上がるという。
「酒造りは、1に麹というけど、うちは1蒸し、2蒸し、3に蒸し」。特注した木製四角甑(こしき)を使い、麹米と掛米を分け、最適条件で毎日2回ずつ蒸す。「さばけが良く、間違いなく日本一の蒸し米です」。
蔵の改築を進め、仕込み蔵を冷蔵庫化。新蔵のテーマは「木と無機質の融合」で、旧蔵の梁や柱をコンクリートと機能的に組み合わせ、外光も取り入れて美術館のような酒造空間を実現した。
「酒蔵は継続こそが存続意義」を信念に、地元銘柄「白糸」にも力を入れ、山の麓の田んぼで酒米栽培を始める。
今年、全国新酒鑑評会へ初出品し、純米大吟醸で金賞を受賞。来期はハネ木搾りをもう1槽増やす計画だ。
先端技術と残すべき古式の形をシンクロさせた酒造りで、蔵と地域を未来へつなぐ。
↑ 田中六五
●白糸酒造・福岡県糸島市本1986
●代表銘柄:田中六五、白糸
●杜氏:田中克典 ●主要な米の品種:山田錦
ハネ木搾りの重しは総重量1t。大きな石は90kgある Photo by Y.Y.
ハネ木搾りの重しは総重量1t。大きな石は90kgある Photo by Y.Y.
冷却水が流れる-5℃の槽 Photo by Y.Y.
ハネ木搾り全体 Photo by Y.Y.
外光を取り入れ明るく清潔な新蔵の洗米場 Photo by Y.Y.
釜場の奥に木製の四角甑 Photo by Y.Y.
洗浄後、乾燥中の麹蓋 Photo by Y.Y.
正面が酒母室。右手に麹室 Photo by Y.Y.
仕込み蔵 Photo by Y.Y.
分析室 Photo by Y.Y.
ケヤキで特注した神棚 Photo by Y.Y.
手前が新蔵、一番奥が100年以上前に建てられた旧蔵 Photo by Y.Y.
※週刊ダイヤモンド2021年6月19日号より転載
●白糸酒造