↑東鶴酒造6代目で杜氏の野中保斉さん Photo by Yohko Yamamoto
新日本酒紀行 地域を醸すもの
佐賀県多久市 「東鶴」
『心機一転、設備一新!
東鶴の新たな羽ばたき』
(本文)
山々に囲まれた佐賀県多久市の東鶴酒造。1989年から訳あって、酒造りを休業していた。
2002年に6代目の野中保斉さんが蔵に戻ったものの、酒の味が苦手で飲食店に勤務。ある日、唐津市の小松酒造の蔵元杜氏、小松大祐さんと出会い、酒造りの姿勢と酒のうまさに魅了される。
自ら酒を醸すと決め、国税庁の酒造講習会で学び、山口県の永山本家酒蔵場で一冬働き、2009年から父と酒造りを再開した。だが、長い休造期間もあって設備は老朽化、酒造経験も乏しく、1年目の酒は手厳しい評価を受ける。噂を聞いた県内の蔵元や酒販店がアドバイスを授け、酒質が少しずつ改善した。
そんな中、多久市の特産品開発プロジェクトに参加。多久市産米ゆめしずくで純米大吟醸酒を醸すと地元で売れ、「蔵の理想は、地元に愛される酒」と保斉さんは励まされた。
さあこれからというタイミングの、2019年8月28日。激甚災害に指定された集中豪雨が蔵を襲った。隣を流れる別府川が決壊し、大事な設備や蔵の心臓部である麹室が床上浸水してしまう。
「廃業も考えましたが、今やるしかないと、尻をたたかれました!」。
老朽化した槽搾り機は、空調設備が整った新型搾り機に変わり、麹室はさらなる水害を避けるため、物置きと化していた蔵の2階に移設。
「今は、設備が揃って夢のようです。一流の蔵で仕事をしている気分(笑)」。
心機一転、設備一新の今年の酒。東鶴の新たな羽ばたきが始まった。
↑『東鶴 純米酒』
●東鶴酒造・佐賀県多久市東多久町大字別府3625-1 ●代表銘柄:東鶴 純米吟醸酒、東鶴 実のり 生〓つくり(〓は酉に元)、東鶴 芽吹き うすにごり 生 ●杜氏:野中保斉●主要な米の品種:山田錦、ゆめしずく、レイホウ
蔵は築100年以上。蔵の前と隣が川 Photo by Y.Y.
蔵は築100年以上。蔵の前と隣が川 Photo by Y.Y.
蔵は築100年以上。蔵の前と隣が川 Photo by Y.Y.
蔵は築100年以上。蔵の前と隣が川 Photo by Y.Y.
昔の麹室の扉。川が氾濫し、ここまで浸水した Photo by Y.Y.
新しい麹室は蔵の2階に設置 Photo by Y.Y.
新しい麹室は蔵の2階に設置 Photo by Y.Y.
新しい麹室は蔵の2階に設置 Photo by Y.Y.
新しい麹室は蔵の2階に設置 Photo by Y.Y.
他蔵から譲り受けた洗濯機 Photo by Y.Y.
昔の槽搾り機 Photo by Y.Y.
保斉さんがずっと欲しかった自動醪搾機は空調完備。5代目の父、保圀さんが準備中 Photo by Y.Y.
深みある味の「実のり 生〓つくり(〓は酉に元)」 Photo by Y.Y.
酒粕で造った赤酢「赤鶴久」は飲んでよし、酢飯にもよし Photo by Y.Y.
※週刊ダイヤモンド2021年3月6日号より転載