新日本酒紀行 地域を醸すもの・瀧自慢 NO.333
三重県名張市
瀧自慢 TAKIJIMAN
「百人が一杯飲む酒より、一人が百杯飲みたくなる酒」を
三重県の赤目四十八滝は、山岳信仰の聖地で、奈良時代の修験道の開祖、役行者(えんのぎょうじゃ)や伊賀忍者が修行した地。自然豊かな渓谷には、オオサンショウウオが生息し、環境省の「平成の名水百選」に選ばれた。
この滝の近くで酒造りをするのが、「瀧自慢」を醸す瀧自慢酒造だ。仕込み水は滝の伏流水を用い、県産米を主に食に寄り添う酒を造る。蔵は、赤目口駅から四十八滝に向かう途中にあり、滝の行き帰りに寄る客も多いが、地元民でにぎわう。「百人が一杯飲む酒より、一人が百杯飲みたくなる酒」を目指し、「地元の人に毎日晩酌で飲んでもらっているのが、何よりの誇りです」と5代目の杉本龍哉さん。
創業は明治初期、戦時中は休造したが、龍哉さんの祖父である3代目が酒造りを復活、売店を設けた。4代目の隆司さんは高い酒質を求め、自ら杜氏になって改革を行い、蔵の1階に酒造設備を集めて一直線で短い動線を考案。搾り機は冷蔵庫に収め、劣化を最小限に。少量を丁寧に醸し、清潔をキープ、クリアな酒質を実現して評価も向上した。
全国新酒鑑評会では2年連続で金賞を受賞し、海外のコンクールでも優秀な賞に輝くが、出品酒も他の商品も同様に仕込んで搾るのが自慢だ。祖父と父の背中を見て育った龍哉さんは、東京農業大学醸造科学科へ進み、卒業後は酒販店などで修業しながら蔵仕事を手伝った。2年後に蔵入りし、酒造りに励み、今年で30歳。年内には自ら企画した商品を発売予定だ。赤目の地酒をさらに磨き上げる。
瀧自慢 辛口純米 滝水流(はやせ)
●瀧自慢酒造・三重県名張市赤目町柏原141
●代表銘柄:瀧自慢 純米大吟醸 匠35、同 大吟醸、同 純米大吟醸、同 純米吟醸
●杜氏:杉本隆司
●主要な米の品種:山田錦、五百万石、神の穂、雄町、八反錦、亀の尾
杉本龍哉さん Photo by Yohko Yamamoto
洗米 Photo by Takijimansyuzo
蒸し米 Photo by Takijimansyuzo
麹室 Photo by Takijimansyuzo
酒蔵をつなぐ通路 Photo by Yohko Yamamoto
仕込み蔵の上の回廊 Photo by Yohko Yamamoto
仕込みタンク。正面奥が麹室 Photo by Yohko Yamamoto