新日本酒紀行 地域を醸すもの 日本酒

新日本酒紀行 地域を醸すもの・長珍 NO.328

 

新日本酒紀行「長珍」
尾張津島天王祭の宵祭の提灯船 Photo by Masaki Ito

「余計な濾過、加水、火入れせず。
新聞紙包みの濃醇な生酒熟成」

(本文)
織田信長も見たという尾張津島天王祭は、一艘400個近い提灯が幻想的に川面を照らし、600年の歴史を誇る。国の重要無形民俗文化財で、ユネスコの無形文化遺産にも登録された。
その祭の会場近くで酒造りをするのが長珍酒造だ。創業1868年、当時の屋号は「提灯屋」だったが「末長く珍重される酒」を願って「長珍」に改名した。

気候風土を生かしたうま味豊かな酒へ

 5代目の蔵元杜氏の桑山雅行さんは、東京農業大学醸造学科を卒業後、白鶴酒造に入社。その後、実家の蔵の経営状況が悪化し、反対する両親を押し切り1992年に蔵を継いだ。
当時の越後杜氏と酒造りを始めて3年後、杜氏が高齢で引退。次の杜氏は、鑑評会用の吟醸酒が造れず雅行さんが担う。直感を働かせ、蒸し米を硬めに仕上げるなど工夫し、苦労の末にできた酒が名古屋国税局の審査で首席、全国新酒鑑評会で金賞を取り周囲を驚かせた。
さらに9年連続で金賞受賞を果たすが、人為的に蔵の癖をなくし、鑑評会受けを狙う酒造りに疑問を抱く。

土地の水、気候風土を生かしたうま味豊かな酒へ方向転換し、余計な濾過、割り水、火入れをせず、純米の無濾過生原酒を商品化。ラベル代がなく、母親が弁当を新聞紙で包んだことを思い出し、新聞紙で巻いて出荷すると、珍しい見た目と濃醇な味が人気を呼ぶ。
「開けたてと、最後との味の変化を楽しんでほしい」と雅行さんは一升瓶を推す。料理との相性や飲む温度、器など楽しさを追求し、おいしい食へ導く闇夜の提灯のような酒を目指す。

↑「長珍 しんぶんし 山廃純米 70-7 無濾過 生」
●長珍酒造・愛知県津島市本町3-62
●代表銘柄:長珍 しんぶんし40 純米大吟醸、長珍 しんぶんし50 純米吟醸、長珍 純米酒
●杜氏:桑山雅行
●主要な米の品種:山田錦、八反錦、五百万石、雄町、亀の尾

新日本酒紀行「長珍」
尾張津島天王祭の宵祭の提灯船 Photo by Masaki Ito
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尾張津島天王祭の宵祭の提灯船 Photo by Masaki Ito
新日本酒紀行「長珍」
風情を残す、築200年の酒蔵 Photo by Yohko Yamamoto
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吹き抜けの天井 Photo by Y.Y.
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昔、使っていた番傘 Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「長珍」
米は和釜で蒸す Photo by Y.Y.