新日本酒紀行 地域を醸すもの 日本酒

新日本酒紀行 地域を醸すもの・蔵太鼓 NO.311

新日本酒紀行 地域を醸すもの

福島県喜多方市 喜多の華酒造場「蔵太鼓」

新日本酒紀行「蔵太鼓」
喜多の華酒造場の蔵外観。のれんに「酒塾」の文字が。Photo by Yohko Yamamoto

『父と娘が喜多方で醸す、絆の辛口純米酒』

   喜多方市の名物はラーメン、飯豊山の伏流水が麺もスープもうまくすると、100軒を超える店が味を競う。水の良さは上質な日本酒も生み、最盛期は30軒、今も9軒の酒蔵があり、最も若い蔵が創業1919年の喜多の華酒造場だ。

 定番酒は「蔵太鼓」で、30年前、3代目兼杜氏の星敬志さんが、甘口の酒が多い中、辛口酒で勝負した1本。日本酒に興味を持ってほしいと、蔵見学を「酒塾」と名付けて受け入れ、公民館が開催する酒造り講座は真剣な実地体験をともない、25年通う強者もいる。

   敬志さんの長女、里英さんが醸造責任者になって6年目。
里英さんは、蔵を継ぐ気がなく東京の会社に就職、次女と三女も家を出た際、敬志さんは蔵を畳む覚悟をした。だが、里英さんは酒の会を手伝ううち酒造に興味が湧き、2010年、26歳で東京農業大学短大部の醸造学科へ入学。同級生は18歳で情熱に溢れ、影響されて蔵を継ぐ決意を固める。

    翌年、東日本大震災で蔵は被災し、風評被害も重なり大変だったが、前進あるのみ。福島県清酒アカデミーでも学び、13年に蔵に入社。身に付けた近代的な酒造りと、自社の古い設備の違いに戸惑う里英さんに、敬志さんは1.2トンの酒造りを任せた。驚きつつも度胸がつき、里英さんは少しずつ設備を整え、衛生面を徹底的に見直し、酒はきれいさを増して高評価。そんな姉の姿を見て、三女も蔵を手伝い始める。「父の造った酒を、洗練していきます」と里英さん。父から受け継ぐ酒、次の舞台へ。