新日本酒紀行 地域を醸すもの 日本酒

新日本酒紀行 地域を醸すもの・北島 NO.302


新日本酒紀行 地域を醸すもの「北島」

新日本酒紀行「北島」
14代目の北島輝人さん Photo by Yohko Yamamoto

滋賀県湖南市

『コクよし切れよし燗でよし、

近江米で醸す生酛造りの純米酒』

 白い土壁と瓦屋根の門構え、滋賀県湖南市の旧東海道に面した北島酒造は、1805年創業の老舗蔵だ。
2013年に、14代目を継いだ北島輝人さんは、地元銘柄の「御代栄(みよさかえ)」に加え、新銘柄「北島」を立ち上げた。甘くて華美な香りの酒の流行に危機感を覚えた中、お燗すると豊かにさえて切れの出る生酛の酒に出会い、日本酒の未来に可能性を感じる。そこで、滋賀県産米を用い、一本芯の通った骨太の純米酒を生酛造りで醸すと決めた。

 当時の杜氏は80歳のベテランだったが、生酛造りは初経験。一緒に挑戦してくれたものの、酛すり作業は困難を極めた。やみくもにすりつぶしては駄目で、良いあんばいが必要。すりつぶす状態の見極めに苦労する。加えて、手間のかかる力仕事のため人手が足りない。そこで飲食店や酒ファンに声を掛け、手伝いを募集した。すると、酛すり体験者が酒の応援団に。

 16年から、高齢の杜氏に代わり、鳥取県の酒蔵で働いていた齋田泰之さんにバトンタッチ。生酛造りと酒米作りの経験者で、滋賀に移住後も酒米の玉栄を栽培する。

 一年中、生酛の燗酒を飲む超燗酒派で、北島さんと目指す方向が一緒という頼もしい存在だ。「齋田杜氏は米作りの先に酒造りがあるという考え方。生き物を育てる目で、米から酒を醸します」。

 生酛路線は軌道に乗り、県外からも取引依頼が増えた。田んぼから始まる人力で醸す生酛の酒、「高速道路を人力車で行くようなものですが」と、北島さんは笑う。

新日本酒紀行「北島」
↑ 「北島 玉栄 生酛 純米」
北島酒造・滋賀県湖南市針756●代表銘柄:北島 生酛 純米吟醸、北島 生酛 純米、北島 燗ガエル 生酛純米、エン 生酛純米、御代栄、塩ゆず酒
●杜氏:齋田泰之
●主要な米の品種:玉栄、渡船、吟吹雪
新日本酒紀行「北島」
旧東海道に立つ蔵 Photo by Yohko Yamamoto
新日本酒紀行「北島」
蔵の内部は、歴史を感じさせる