創業時の名は「國萬歳」 Photo by Yohko Yamamoto
新日本酒紀行 地域を醸すもの
「酔楽天」秋田県秋田市
『若き蔵元と杜氏が二人三脚で挑む!
温故知新の酒造り』
李白、杜甫と共に中国の三大酒飲み詩人といわれた酔吟先生こと白楽天が、酒名の由来の大吟醸「酔楽天」。30年以上前に秋田酒造が最高級の酒を目指し、県内でも大吟醸酒の先駆けだ。
上品な味わいは、当時の県知事の御用達となり、繁華街川反で圧倒的支持を受け“川反のドンペリ”とも呼ばれた。考案した当時の蔵元、川口和夫さんは酒造組合の技術委員長を務め、酒米の吟の精の開発にも携わった。
2005年に和夫さんの娘、野本眞子さんが蔵を継いだが、14年に52歳の若さで急逝してしまう。
酒蔵存亡の機に立ち向かったのが、眞子さんの息子の翔さんだ。東京で生まれ育ち、就職していたが、心を決め29歳で蔵を継ぐ。
未知なる世界へ飛び込んで試行錯誤。県内外の蔵元から助言を得て、少しずつ経営を軌道に乗せた。
「最初に酒質の向上、次は建屋の維持が課題に」と翔さん。
歴史ある仕込み蔵など7カ所が有形文化財の指定を受け、修復には莫大な費用がかかる。悩み多き翔さんの頼もしい片腕となるのが、同年代の杜氏小舘巌さんだ。
県立大学で酵母を研究し、06年に入社。前杜氏の加藤貢さんの下で修業し、21年に杜氏に就任。その後、新しい酒「髭・眼鏡・坊主」に着手した。ユーモラスな名だが、中身は至って大真面目。
先々代の蔵元が関わった米と、大学時代の恩師岩野君夫先生が1991年に開発したAK-1酵母の組み合わせという、温故知新の酒造りだ。
ロングセラーの「酔楽天」と共に、二人三脚で勝負を懸ける。
酔楽天 純米大吟醸 百田晴
●秋田酒造・秋田県秋田市新屋元町23-28
●代表銘柄:酔楽天、髭・眼鏡・坊主、秋田晴、A(エース)
●杜氏:小舘 巌
●主要な米の品種:吟の精、山田錦、秋田酒こまち、百田