週刊ダイヤモンド22年5月14日号 の連載「新日本酒紀行 地域を醸すもの」は、広島県安芸郡熊野町・馬上酒造の「大号令」をご紹介。再起を懸けて醸す小さな蔵の渾身の酒造り!
木の甑と杜氏の村上和哉さん Photo by Yohko Yamamoto
『サラブレッドを目指し伝統製法で醸す、切れ味抜群のうま酒』
広島県安芸郡熊野町
安芸津杜氏が腕を振るった馬上酒造場の酒は熊野町内で消費され、最盛期は900石を誇った。
4代目の馬上日出男さんは、1983年に34歳で銀行を退職して蔵を継ぐが、生産量は減少し、95年、杜氏の逝去後は日出男さんが杜氏を兼務。妻と30石を造り続けた。
2020年、70歳を過ぎて体力の不安とコロナ禍の影響もあり、蔵を閉じることを決意。
そんなとき、「酒造りがしたい」と現れたのが、広島市出身で36歳の村上和哉さんだ。
竹原市の竹鶴酒造で10年、滋賀県湖南市の北島酒造で4年修業した一途な努力家。一度は将来を案じて断るが、諦めない和哉さんの熱意にほだされ、杜氏として受け入れた。
酒造りの特徴は伝統的な製法にある。今や希少となった和釜と木の甑(こしき)で米を蒸し、蒸した米は自然放冷する。麹はふた麹と箱麹を使い、搾りは槽。
手が掛かるが「シンプルな造りで環境を整えれば、発酵は自然と整います」と和哉さんは明るい。
古い道具を活用する一方で、「暗いと危険で汚れが見えにくい」と、蔵内の照明は数を2倍に、老朽化した洗米機は衛生上の問題もあり新調した。
冬の外気温はマイナス10℃にも下がる寒冷地の環境を生かし「酵母は硬派に、味はライトに」と設計した酒は、切れ味抜群のうまさに仕上がる。
再起を懸けた酒のラベルは、酒蔵名をもじって馬が向き合う馬上杯のデザインに変更。
「まだポニーのような顔ですが、いずれはサラブレッドに」と日出男さんは期待を込めて笑顔で酒を送り出す。
↑「大号令 純米無濾過原酒 八反錦60」
●馬上酒造・広島県安芸郡熊野町城之堀2-5-16
●馬上酒造・広島県安芸郡熊野町城之堀2-5-16
https://www.instagram.com/bajoshuzo/
●代表銘柄:大号令 純米無濾過原酒 雄町60、純米吟醸無濾過原酒 山田錦55、生酛純米無濾過生原酒 山田錦、生酛純米無濾過生原酒 雄町、生酛純米無濾過生原酒 千本錦(生酛は酵母無添加)
●代表銘柄:大号令 純米無濾過原酒 雄町60、純米吟醸無濾過原酒 山田錦55、生酛純米無濾過生原酒 山田錦、生酛純米無濾過生原酒 雄町、生酛純米無濾過生原酒 千本錦(生酛は酵母無添加)
●杜氏:村上和哉
●主要な米の品種:八反錦、山田錦、雄町、千本錦
●主要な米の品種:八反錦、山田錦、雄町、千本錦
蒸米作業 Photo:Bajousyuzou
蒸米作業 Photo:Bajousyuzou
自然放冷 Photo:Bajousyuzou
麹室 Photo:Bajousyuzou
麹米 Photo:Bajousyuzou
麹米 Photo:Bajousyuzou
生酛造りの酛摺り Photo:Bajousyuzou
仕込みタンクに蒸し米を入れる Photo:Bajousyuzou
全量を槽で搾る Photo:Bajousyuzou
全量を槽で搾る Photo:Bajousyuzou
蔵の前のバス停 Photo by Y.Y.
蔵の前のバス停 Photo by Y.Y.
別の建物で輝いていたネオンサインを移設 Photo by Y.Y.
座敷に飾っているラベルに使った「大号令」の書は、昭和三筆と呼ばれた手島右卿の筆 Photo by Y.Y.
左から、八反錦6号酵母、雄町、八反錦9号酵母 Photo by Y.Y.
蔵元の馬上日出男さん(右)と杜氏の村上和哉さん Photo by Y.Y.
(酒食ジャーナリスト 山本洋子)
※週刊ダイヤモンド2022年5月14日号より転載