週刊ダイヤモンド22年4月23日号・連載「新日本酒紀行 地域を醸すもの」では、茨城県東茨城郡大洗町の酒蔵、月の井酒造店の「和の月」をご紹介しています。
↑洗米は10kg単位で丁寧に行う Photo by Yohko Yamamoto
『速醸から生酛造りへ。
米・水・蔵の命を生かし切る酒』
和の月と書いて、なのつきと読む酒は、茨城県で初の有機農産物認定を受けた酒米で醸す酒。大洗町の月の井酒造店の坂本敬子さんが、47歳で急逝した夫、和彦さんの遺志を継ぎ、生きた証として、2004年に世に送り出した。
当時の杜氏は、現代の酒造りの主流、速醸造りで仕上げたが、「醸造用乳酸や酵母を添加しない、自然の力だけで造る生酛造りにしたい」と敬子さんは思い続けた。
杜氏が引退した後、大英断を下し、生酛造りで定評のある石川達也さんを杜氏に招く。石川さんは早稲田大学在学中から埼玉県の神亀酒造で酒造りを学び、広島県の竹鶴酒造で長く杜氏を務め、広島杜氏組合長でもある。
「生酛造りは江戸時代末期に完成した技術。埋け飯、酛摺り、温み取りなど、全て理に適う。その意味を知ろうとしなければ」と石川さん。
酒造りに大事なのは発酵の環境と蔵人の意識を整えること。
「米にも水にも命があり、生かし切ると酒に個性が宿る。酒は“作る”ではなく“造る”もの。造るは神と祈りに通じる言葉で授かるに近い」と語る。
そうしてできた新生「和の月」は、石川さん曰く「緩衝力の強い酒」になった。緩衝力とは味や刺激を和らげたりまとめたりする包容力という。アルコール度数は20度と力強く、透明感と切れのよさが突き抜けた。ロックでよし、割り水した燗酒もよしと楽しみ方は幅広い。
8代目の坂本直彦さんも杜氏と一緒に裸で麹造りを行い、造りの一翼を担う。
伝統に則った自然派の酒造り、第二章へ。
↑「有機米純米酒 和の月80生酛原酒」
「和の月」ラベル Photo by Y.Y.
「和の月」ラベル Photo by Y.Y.
●月の井酒造店・茨城県東茨城郡大洗町磯浜町638
●代表銘柄:有機米純米大吟醸酒 和の月39生酛原酒、同 純米吟醸酒 和の月60生酛原酒、月の井、彦市
●杜氏:石川達也
●主要な米の品種:山田錦、美山錦
洗米は10kg単位 Photo by Y.Y.
洗米は10kg単位 Photo by Y.Y.
10℃前後の水で浸漬 Photo by Y.Y.
こしきで米を蒸す Photo by Y.Y.
蒸し上がった米は自然放冷 Photo by Y.Y.
蒸し上がった米は自然放冷 Photo by Y.Y.
蒸し具合を確かめるひねり餅 Photo by Y.Y.
ひねり餅が作れる杜氏は、今やほとんどいないという Photo by Y.Y.