↑茅葺屋根の母屋 Photo by Yohko Yamamoto
吾有事・・・『わがうじ』と読みます。このお酒を初めて飲んだとき、澄み切った味の奥に、森のような清々しく深いものを感じました。なめらかで、いくらでも飲めそうなきれいな美酒。好きなタイプです。
この銘柄を手がけたのは、全量純米大吟醸を醸す「楯野川」楯の川酒造の佐藤淳平さん。醸造の統括を務めるのは、若手の阿部龍弥さんです。
蔵を訪ねると、なんと茅葺屋根!
というわけで、行ってきました山形県。
お酒造りはつまるところ、センス!だと実感した次第。龍弥さん素晴らしい。
週刊ダイヤモンド 2022年 4/2号
↑社長の佐藤淳平さん(右)と統括の阿部龍弥さん Photo by Y.Y.
新日本酒紀行 地域を醸すもの「吾有事」
山形県鶴岡市
『茅葺屋根の蔵で再始動!
30歳が醸すネオクラシックな酒』
銘醸地といわれた山形県鶴岡市は、今も7軒の酒蔵が残る。その一つが創業1724年の奥羽自慢だ。茅葺屋根の母屋に酒蔵が続く老舗蔵だが、2009年、300年の歴史に幕を閉じようとしていた。
伝統ある蔵をなくしてはならないと、酒田市の「楯野川」醸造元の楯の川酒造の佐藤淳平さんが再建に挑み、海外資本も入れて新しい幕を開けた。
新銘柄は「吾有事」。曹洞宗の開祖、道元禅師の言葉で、“自分の存在と時間が一体になること”を意味し、「時間も自分も忘れるほど追求した酒」と淳平さんが命名した。
17年に醸造のトップに、26歳の阿部龍弥さんを抜擢。20歳から楯の川酒造で酒を醸している龍弥さんの腕とセンスを見込み、統括の役員に。
以前の奥羽自慢は大量生産型で、1万リットル級の大型タンクが並び、設備は老朽化していた。これでは良い酒はできないと、昔の設備は全て撤去。
タンクは2000リットルにし、総米600kgの小仕込みで統一した。全量、山形県産米を使い、米洗いは10kg単位で、麹は木箱と手作業が中心。酒を搾る部屋は冷蔵室にするなど、設備投資も大胆に行い酒質向上を図った。
そうして龍弥さんが没頭して醸した酒は、フレッシュでクリア、うま味と甘味に微かなミネラル感もあり、切れの良さ抜群で人気を呼ぶ。
「掘り続けた赤字が底を打ち、ようやく黒字化に」と淳平さん。
日本酒の原料は米と水とシンプルだが、味の表現は無限大。軽くて深いネオクラシックな酒は、蔵に酒造業界に新しい息吹を注ぎ込む。
吾有事 特別純米
●奥羽自慢・山形県鶴岡市上山添字神明前123
●代表銘柄:吾有事 純米大吟醸 雲の上、吾有事 純米大吟醸 尖鋭辛口、奥羽自慢6、奥羽自慢15、奥羽自慢33
●統括:阿部龍弥
●主要な米の品種:出羽燦々、雪女神
昔ののれん Photo by Y.Y.
原料処理エリア。壁に旧銘柄「岩の井」の文字。洗米は10kg単位 Photo by Y.Y.
原料処理エリア。洗米は10kg単位 Photo by Y.Y.
原料処理エリア。洗米は10kg単位 Photo by Y.Y.
天井は高く自然光も入る Photo by Y.Y.
天井は高く自然光も入る Photo by Y.Y.
麹室 Photo by Y.Y.
麹室。麹は木箱を使う Photo by Y.Y.
分析室 Photo by Y.Y.
冷蔵室にある圧搾機。仕切り板は外して洗浄 Photo by Y.Y.
冷蔵室にある圧搾機。仕切り板は外して洗浄 Photo by Y.Y.
仕込み蔵。2000リットルのタンクや酒を詰めたミズナラの樽が並ぶ Photo by Y.Y.
床はフラットに改修 Photo by Y.Y.
明るい事務所 Photo by Y.Y.
外の通路は融雪仕様 Photo by Y.Y.
(酒食ジャーナリスト 山本洋子)
※週刊ダイヤモンド2022年4月2日号より転載