週刊ダイヤモンド 2021年 6/26号連載『新日本酒紀行 地域を醸すもの』山口県萩市の「東洋美人」さんをご紹介しています!
『苦難を乗り越え、
華やかさと甘美を極めた大吟醸』
蔵元杜氏の澄川宜史さん Photo by Yohko Yamamoto
(本文より)
香り高く甘くフルーティな酒「東洋美人」を極めたのは、澄川酒造場4代目で杜氏の澄川宜史さん。
人気蔵だが昔は負け組で、酒が売れず、父親は早朝から深夜まで営業や配達に回った。宜史さんは東京農業大学醸造学科に在学中、「十四代」高木酒造で研修し、酒造りの高い精神を学び感銘を受けた。
卒業後、蔵へ戻り、「自分が飲みたい酒を造りたい」と、2004年杜氏に就任。酒質改善を行い、甘美な酒を仕上げた。
販路を求め、夜行バスで東京へ通い、少しずつ酒が評価されるように。
だが13年の夏、集中豪雨で蔵の前の田万川が氾濫。蔵が床上浸水し、醸造設備が水没、酒1万本以上が流出する甚大な被害に襲われた。廃業を覚悟したが、全国から駆け付けた1500人もの仲間の助力で、2カ月遅れで新年度の酒造りがかない宜史さんは原点に立ち返る年となった。
14年、3階建ての新蔵が完成。洪水対策を取り、作業が進むにつれて階上から階下へ降りる効率的な設計だ。最新鋭の洗米機や甑を導入する一方で、麹室は伝統製法による麹造りを行い、丁寧な小仕込みを徹底。そのかいあって、様々な酒鑑評会で最優秀の成績を収め、16年には日露首脳会談の夕食会で純米大吟醸の「壱番纏」が選ばれて大ブレークした。
自分を育ててもらったように、困窮する近隣の若手蔵元には麹室を貸し出し、コロナ禍で大変な酒販店と飲食店には利益度外視の特別な酒で恩を返す。
苦難を乗り越え、今年、創業100周年を迎える。
代表の1本 ↑ 東洋美人 壱番纏 純米大吟醸
●澄川酒造場・山口県萩市大字中小川611
●代表銘柄:東洋美人 醇道一途、同純米吟醸50、同 純米大吟醸 Asian Beauty、同 プリンセス・ミチコ
●杜氏:澄川宜史
●主要な米の品種:山田錦、西都の雫、酒未来
新蔵3階の原料処理室
全自動洗米吸水機を扱う蔵人の鈴木学さん
全自動洗米吸水機
全自動洗米吸水機を扱う蔵人の鈴木学さん
米を蒸す甑
麹室
麹を盛るプラスチック製ケース
麹を盛るプラスチック製ケース
棚室の麹箱は重ねず、高さも通気性を考慮
棚室の麹箱は重ねず、高さも通気性を考慮
ステンレス壁の仕込み室。室温は5℃。全量1200kg以下の小仕込み
搾る直前のもろみ
搾り機
搾り機の搾り布は頻繁に交換して使う
川向こうの冷蔵倉庫
ボランティア名を刻む
(酒食ジャーナリスト 山本洋子)
※週刊ダイヤモンド2021年6月26日号より転載