新日本酒紀行 地域を醸すもの
三重県名張市 「高砂」
↑新調した木桶と蔵元杜氏の大西唯克さん Photo by Yohko Yamamoto
伝統を守り最新の技法で醸す
美酒蔵が昔の銘柄を復活!
古くから大和と伊勢神宮を結ぶ初瀬街道に、1818年に創業した木屋正(きやしょう)酒造。大和瓦と漆喰壁に虫籠窓が特徴で、主屋などが登録有形文化財に指定される。
6代目蔵元の大西唯克さんが2004年から杜氏を務め、05年に新ブランド「而今」(じこん)を立ち上げた。透明感があり、ジューシーな味わいで瞬く間にトップ銘柄に躍り出た。
而今とは禅宗の故事に基づく言葉で、過去や未来にとらわれず、今をただ精一杯生きるを意味する。
唯克さんは大学卒業後、修業先に乳業会社を選んで食品衛生と管理を学ぶ。その後、広島の酒類総合研究所で酒造りを勉強し、蔵に入った。
当時は普通酒「高砂」が主な商品で売り上げが悪化。杜氏は45年間同じ人で、技術や品質管理への意識の差を痛感。自ら杜氏になると決めた。
唯克さんの酒造りは徹底した検証の裏付けだ。工程のどの作業がどう酒質に影響するかを見極めて判断。手作業と機械作業を使い分けて省力化に励む。
利益の大半を設備投資に回し、清潔な木の麹室、仕込み蔵、照明にも気を使う。労働環境を改善し、朝8時半始業、5時終業にした。
米は契約農家と連携し、地元の山田錦、全国の上質米を確保する。岡山県雄町の史上初の特上米で純米大吟醸を造り話題に。
そして今、挑む酒はきれいの先だ。美しさ+ふくよかさを求め、木桶仕込みと生酛造りを開始。伝統を守り最新の技法で醸すが信条。
創業200周年の年に「高砂」を復活。蔵の両輪を目指す。
高砂 松喰鶴 純米大吟醸
●木屋正酒造・三重県名張市本町314-1
●代表銘柄:而今 純米大吟醸、而今 純米吟醸、而今 特別純米、高砂 松喰鶴 生酛造り 純米大吟醸
●杜氏:大西唯克 ●主要な米の品種:山田錦、雄町、愛山、千本錦
蒸し米はつって取り出し、放冷機に投下 Photo by Y.Y.
蒸し米はつって取り出し、放冷機に投下 Photo by Y.Y.
蒸し米はつって取り出し、放冷機に投下 Photo by Y.Y.
麹造り Photo by Y.Y.
完成した突き破精麹を確認 Photo by Y.Y.
完成した突き破精麹を確認 Photo by Y.Y.
放冷用の木箱が並ぶ。台を支える木製の脚は畳めるオリジナル Photo by Y.Y.
初日酒母の櫂入れ。米が硬く力が必要 Photo by Y.Y.
初日酒母の櫂入れ。米が硬く力が必要 Photo by Y.Y.
温度計は0.1℃単位で較正 Photo by Y.Y.
仕込み蔵 Photo by Y.Y.
3段仕込みの2段目の仲添え Photo by Y.Y.
仕込み蔵は床と中床の2フロア造り Photo by Y.Y.
仕込み蔵は床と中床の2フロア造り Photo by Y.Y.
特別純米而今にごり酒 Photo by Y.Y.
大和瓦と漆喰壁に虫籠窓が特徴 Photo by Y.Y.
妻の香美さんと Photo by Y.Y.
(酒食ジャーナリスト 山本洋子)
※週刊ダイヤモンド2021年1月9日号より転載